労働審判制度創設に貢献された故髙木剛・元連合会長への追悼文
「髙木木さんを悼む 髙木剛さんと労働審判制度」 労働審判員連絡協議会、名誉会長 菅野和夫
元連合会長の髙木剛さんが9月2日に逝去されました。髙木さんは労働審判制度誕生に大きな役割を果たしたので、会員皆様にその一端を紹介し、追悼いたします。
労働審判制度は、1997年7月の司法制度改革審議会設置に始まる司法制度改革から生み出されました。同審議会には当時ゼンセン同盟会長だった髙木さんが労働界を代表して参加され、民事・刑事の裁判制度の改革、裁判外の紛争解決サービスの整備、法曹養成制度の改革など、司法制度全般の改革論議に積極的に参加されました。
そのなかで、労働紛争の解決制度改善も重要な課題であると強調され、それを改革の視点に入れさせることに尽力しました。その結果、同審議会は、2001年6月の意見書で「労働関係事件への総合的対応の強化」として、①労働関係事件訴訟の審理期間半減、②民事調停の特別類型として雇用労使関係専門家の参加する労働調停制度の導入、③労働関係事件固有の訴訟手続きの整備の要否」を検討すべきと提言しました。
上記意見書を受けて2002年2月から開始した司法制度改革推進本部での労働検討会(私が座長で髙木さんも参加)においては、上記課題のうち①の労働関係事件訴訟の審理期間半減は、全労委協議会と厚労省における三者構成での専門的検討に委ねることとし、それ以外の課題を一体として、「裁判所において労働関係の民事事件につき労使が関与して簡易迅速に調整と判定を行う手続き」の検討に向かいました。
こうして2003年夏の会合において、「裁判所における個別労働関係事件についての簡易迅速な紛争解決手続きとして、労働調停制度を基礎としつつ、裁判官と雇用・労使関係に専門的な知識経験を有する者が事件の内容に即した解決案を決するものとする、新しい制度(労働審判制度)を導入することはどうか」(「中間とりまとめ」)との構想に至り、その肉付けが行われて「労働審判」制度となりました。
このような審議における髙木さんの功績は、①司法制度改革審議会において労働関係事件に関する司法手続改革の必要性を力説し、その点での委員の認識を共有させたこと、②労働検討会において、日経連が主張して労働政策上宿題となっており、本審議会報告でその実現が決まっていた労働調停制度について、これを労働審判制度に発展させるに寄与したこと、③当事者に対し手続きへの参加を強制するか、審判に拘束されるとするか、などの細部に関する検討においても公平で実効的な制度の実現に貢献したこと、であります。
私は、労使代表の髙木・矢野委員を意識しながら、全委員の闊達なご意見をまとめることに傾注しました。髙木剛さんのご貢献に心からのお礼を申し上げます。
「労働審判制度創設に尽力された故髙木剛・元連合会長を悼む」 労働審判員連絡協議会 理事会
労働審判制度の創設にご尽力された元連合会長 髙木剛氏が9月2日にご逝去されたとの報に接し、心からご冥福をお祈り申し上げます。
労働審判制度は、20世紀末から始まった司法制度改革の一環として創られた制度でが、その創設の道のりは決して平坦なものではなく、関係者の叡智とご努力によって多くの課題を克服し、制度として確立されたものです。検討開始から数年にわたる議論の中でも、特に制度の具体化に向けた「労働検討会」(菅野先生座長:本協議会名誉会長)には、公益、司法、行政、実務家弁護士の各委員に加え、労働側委員として髙木剛氏(当時、ゼンセン同盟会長・連合副会長)が、経営側委員として矢野弘典氏(当時、日経連専務理事)が参画されていました。
「専門的知見や経験を有する調停委員を関与させる労働調停制度を導入すべき」と主張される矢野委員と、「労働関係の専門的な知識経験を有する非職業裁判官と職業裁判官が、同じ権限をもって参加する『労働参審制』の導入」を主張される髙木委員との間で激論が交わされましたが、公益委員による中間的な制度案の提案がなされ、労使の懸隔を乗り越えて制度の肉付けが行われ、労使の専門家が参画する「労働審判制度」という画期的な制度として結実したものです。
迅速、公正、簡易、廉価に紛争を実効的に解決できる制度として、今後も広く制度が活用されるよう、労働審判員としても制度発展に尽力することをお誓いし、故髙木剛氏への追悼の言葉とさせていただきます。