司法制度改革による労働関係紛争解決のシステムとして「労働審判制度」発足

19997月から2年間にわたって「司法制度改革審議会」が政府に設けられ、21世紀の我が国社会で司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関する基本的施策が議論されました。

同審議会では、労働紛争に関する司法制度の在り方が検討事項の1つとされ、最終報告書では、通常訴訟手続きの他に、①雇用労使関係に関する専門的知識を有する者が参加する労働調停の制度導入の検討、②専門知識を有する者の関与する裁判手続きの導入の当否、③労働関係事件固有の訴訟手続整備の要否 を早急に検討されるべきとされました、

この報告を受けて、司法制度改革推進本部の中で労働検討会を設置され、議論が重ねられましたが、一時は議論が対立・膠着状態となったものの、経営環境や企業組織の変化と個別労働紛争が増加する傾向や労働関係事件の性格の認識を共有する中で、裁判官と労使専門家が合議体で3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、解決しなければ審判を行う「労働審判制度」の創設が合意されました。

こうした労働検討会の合意に基づき、法案づくりが行われ、20044月、国会において全政党の支持を受けて労働審判法が成立しました。

迅速な労働紛争解決の手続きとして定着  

労働審判制度は、地方裁判所における制度として、20064月から全国50か所の地方裁判所で運用が開始されました(現在は、地裁のほかに立川、松本、浜松、福山、小倉支部の5支部でも実施)。増加する個別労働紛争の裁判所手続きとして普及してきました。利用件数は、2006年の877件から2008年には2千件を超え、翌年2009年に3,500件を超え、以降は4千件近くの事件数で労働関係の通常訴訟数とほぼ同数になっています。

労働審判制度は、裁判官である審判官のほかに、雇用関係の実情や労使慣行に詳しい専門家が審判員として審判官(裁判官)とともに審理・判断に加わり、原則3回の審理、3ケ月以内に終了という迅速な手続きを進め、事案の実情に即した柔軟な解決が可能、話し合いがまとまらない場合には当事者の権利関係と経過を踏まえて判定(審判)を行います。審判の内容に対して異義の申立てられた場合は、通常の裁判の訴訟手続きに移行するなどの点が制度の特徴です。

現状では殆どが3回以内の期日で終了し、平均審理期間は約2ケ月半と迅速性が実現しており、事件の7割以上が調停成立で終了しています。労働審判に異議の申立がなされなかった場合を含めると8割近くがこの手続きで終了し、解決率も高いものとなっています。審理の迅速さ、審判官・審判員の専門性、当事者から直接口頭で質問する審理などに労使両当事者から評価が得られていると考えられます。東京大学社会科学研究所の過去2回にわたる利用者の意識調査でもそうした結果が表れています。

この制度は裁判所関係者に加えて弁護士会、労働審判員を選出する労使団体がこの制度を育てていくために周到な準備、協議を行って、20064月の開始時期を迎えました。こうした経過があって、今日の状況を迎えているものであると考えます。

今後とも、様々な課題を克服しながらさらに利用度の高い、利用者に評価されるものとするよう、本協議会会員、労働審判員個々が事件に真摯に向き合って行きます。